手仕事

 手仕事には、人間形成のための多様な要因が含まれている。物をつくりだすときの微妙な苦しみや喜びが、無意識のうちに人生そのものを教えるのだろうか。年季の入った職人たちは、言葉で説明できなくとも、その道のえらい人にも似た高い精神の持ち主であることを私は知っている。しかし、手仕事など今どき時代遅れの後ろ向きの仕事のように見られているが、その考えこそ間違った合理主義であると理解される時がやって来ると私は思っている。しかし、その時までに大切な手仕事の技術の多くが失われてしまうであろうことを、今私は憂えるのである。松本民芸の仕事は、そのための一つのレジスタンスだ。
 昭和41年3月 池田三四郎著「松本民芸家具」あとがきより